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「体力の続くかぎり、自分のことは自分で始末しなさい」多忙な土光敏夫はこうして“自分の時間”を作った

【連載】「あの名言の裏側」 第2回 土光敏夫編(3/4)土光氏の考える時間管理術

効率的であること、合理的であることを重要視し、自分にも他人にも誠実であることを旨とした土光氏は、自分を律する意識を非常に強く持っている人物でした。
こんな一文があります。
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人間、特に男にとって、よけいなアクセサリーは要らんというのが僕の持論です。会社の仕事で「ムダ、ムリ、ムラを排除せよ」と合理化を要求している者が、自分の日常を律せられぬようでは説得力がない。自分の身の回りも極力合理化せよということです。

 一言でいえば、体力の続くかぎり、自分のことは自分で始末しなさい、と。誰もがやっていることなのに、重役とか社長といった身分になると、何を勘違いするのか、急に身辺を飾り立てたがるようになる。
(中略)
 僕はなんでも自分でやる主義です。出張に行っても自分の下着は自分で洗うし、家にはメイドを置いたこともない。
(中略)
 要は生活を質素にムダなくやればいいわけで、豪邸に住んで派手な生活をするような人は、あまり信用できない。真に強い人は、一人でなんでもやっていけるものですよ。
(『土光敏夫大事典』より)
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こうした土光氏の発言を受けて、「ただの吝嗇(りんしょく)」と一笑に付してしまうのは簡単です。当時、土光氏のことを煙たがったり、揶揄したりするような論調もありました。実際、オイルショックを荒波を超えた日本社会は、程なくバブルの狂乱に浮かれることになります。そしてバブル以降、日本社会・経済がどのようになったのかはいまさら説明するまでもありません。浮ついた欲に支配された生活に、人々は疲弊していきました。

昨今、“ミニマリスト”という生き方が注目されています。家具や食器、服、電化製品、装飾品などの持ち物をできるかぎり減らし、必要最小限のアイテムだけでシンプルに生活する人のことを指すわけですが、「持たない暮らし」「使い切る暮らし」といった視点は、いまを生きる人々の琴線に強く触れる“何か”を放っているようです。ミニマルな暮らしは、単にリーズナブルというだけでなく、物欲や周囲の視線などに翻弄されず、こざっぱりとした自分らしい人生を送りたいと考える人々の感性にピタリとハマったということでしょう。
土光氏の語る「清貧」や「合理性」といった文脈と、いまどきの(若干のファッション性も包含した)ミニマリスト文脈は、もちろんストレートにつながるものではないでしょう。しかし、どこか通底する価値観のように思えてなりません。表層的な事象ではなく、内面や本質を重視する。感情的に足していくことに価値を見出さず、むしろ合理的に引いていくことにこそ価値がある。ノイズに惑わされることなく、自分が本当に大切にしたい事柄を誠実に愛する……そんな感性でしょうか。

 普遍性を備えた土光氏の言説は現在においても鋭く真理をえぐるものであり、2016年という時代を生きる私たちは、そこから多くのヒントを得ることができるはずです。むしろ、いまだからこそ、改めて深く共感できる部分も少なくないのではないでしょうか。
文/漆原直行

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漆原 直行

うるしばらなおゆき




1972年東京都生まれ。編集者・記者、ビジネス書ウォッチャー。大学在学中より若手サラリーマン向け週刊誌、情報誌などでライター業に従事。ビジネス誌やパソコン誌などの編集部を経て、現在はフリーランス。書籍の構成、ビジネスコミックのシナリオなども手がける。著書に『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』、『読書で賢く生きる。』(山本一郎氏、中川淳一郎氏と共著)、『COMIX 家族でできる 7つの習慣』(シナリオ担当。伊原直司名義)ほか。

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